ただのコック

人払いがされた学院長室で、一人の老人と一人のコックが相対していた。
緊迫した空気は、肌を切るような気配さえある。
老人が口を開く。
「君の力が必要になったのだ」
「私はただのコックですよ」
おどけたようにコックが言う。
しかし、決してその瞳は揺らいでいない。
「ミス・ヴァリエールとその使い魔がアルビオンへ向かった」
「コックの私には関係ありませんね」
うそぶくコックに、老人の瞳が揺らぐ。
だが次の瞬間、笑みを消したコックは再び口を開く。
「ですが、アルビオンにはいい塩があるって話です」
コックの凄絶な笑みに、老人はどこか感謝の色を浮かべる。
「K・C・ライバック!!」
「私の名前はマルトー、ただのコックですよ」