ビバ!パトロール

ケティと呼んだ一年生に、平手打ちを食らう。
「残念だわ」
とつぶやいたモンモランシーに頭からワインをかけられ、そのままビンを頭頂部に叩きつけられる。
頭から血とワインをたらしながら傍らのメイドに向き直り、烈火のごとく怒り始めたギーシュを止める人間はいなかった。
そう、人間は。
ぽてぽてと近付いてきたのは、ルイズが召喚したモコイと名乗る得体の知れない人型の何か。
緑色の体に腰巻だけを身に付け、手らしきものには曲がった木の棒を持っている。
指がないのだが、どうやって木の棒を持っているのかはわからない。
さらには顔のつくりが人間と違うために表情がわかりにくいが、どうやら笑っている。
笑われている様子に気付いたギーシュが向き直り、言葉を吐き出そうとした瞬間、先手を打ったのはモコイだった。
「二股かけたのがバレてフラれた腹いせに ヤ ツ ア タ リ ?」
不意にかけられた嘲りを含んだ正論に、ギーシュを始め誰も反応できない。
そのままモコイが笑いながらくるくると回り始めても、声をかける人間はいなかった。
「ダメダメだね。チミ」
だが足を鳴らして止まり、木の棒でギーシュを指しながらあざ笑うようにいった一言に、言われたほうは黙ってはいられなかった。
かけられたワインの為ではなく、顔色を真っ赤に染めたギーシュが絶叫する。
「決闘だ!!」
だがモコイは、散歩に誘われたかのように気楽な返事をする。
「ん? ああ、いいッスよ」


ギーシュの魔法によって姿を現したワルキューレは八体。
常ならば七体までしか召喚できないはずだが、あまりの怒りに我を忘れているようだ。
よく見れば顔どころか目も赤い。
「やれ!!」
ギーシュの声にワルキューレが走り出してもモコイは動こうともせず、顎の下に手らしきものを当ててぽかんと口を開いたままだ。
余裕さえあれば、おびえて動くことも出来ないのかとあざけっただろうが、先刻までの態度では馬鹿にされていると勘違いしてもおかしくはない。
殺してやる、と殺意に心を染めたギーシュの目の前で、不意に先頭のワルキューレが足を滑らせた。
普通ならば、一体のワルキューレが背中から転んだだけで済んだ。
しかし気がはやってしまったためか、寄り集まっていたせいで後ろから来たワルキューレにぶつかってしまう。
さらにあまりに勢い良くすっころんだためか、後頭部を当てた衝撃で頭がもげ、跳ね上がっていた足に当たって飛んでいく。
後ろに続いていたワルキューレも、頭のもげたワルキューレの上に将棋倒しになってしまい、すぐには起き上がれそうもない。
観衆の視線は自然と跳ね上げられたワルキューレの頭に集まり、主であるギーシュの視線もそれに向く。
綺麗な放物線を描くワルキューレの頭は、主であるギーシュへ熱い口付けを送った。
無論ギーシュは激烈な愛情に抗うことも出来ず、地面とワルキューレの頭に顔を挟まれる。
鼻血を噴きながら気絶するギーシュは、少し幸せそうにも見えた。
「ジャストミートッスね」
笑うようなモコイのつぶやきに、返事が出来たのはただ一人。
召喚者であるルイズだけだ。
「事故、よね?」
「事故ッスよ」
「ただの事故よね?」
「ただの事故ッスよ」
こくこくとうなずくモコイに、ルイズは立て続けに問いかける。
「あんたがなにかしたわけじゃないのよね?」
「別に何かしたってわけじゃないッスけど」
「けど?」
ルイズの言葉に、観衆の視線が集中する。
「ボクはオーストラリアでは病気と事故のホボ全てを司ってましたからネ。
 そういう意味では何もしてないとはいえないカモ」
その言葉に、ルイズだけではなく全ての観衆は絶句する。
すでにオーストラリアってどこ? とかいえる雰囲気ではない。
沈黙と視線の集中に、モコイはどこか照れたような様子でつぶやく。
「ホメなくても、イイッスよ?」


デビルサマナー ソウルハッカーズ よりモコイを召喚